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理事長挨拶


 

 京都大学キリスト教青年会(京都大学YMCA)は、1899年に創設され、100年以上にわたって、京都大学の内外でキリスト教の精神に基づく青年会活動を行ってきました。その活動の中心となり、活動の基盤をなしたのが、学生寮である「地塩寮」です。

 

 地塩寮は学生YMCAの寮です。YMCAはYoung Men’s Christian Associationの略語であり、キリスト教青年会と訳されています。教派の枠を超えたキリスト教団体です。地塩寮の立地は京都大学のすぐそばで、通学にたいへん便利ですが、この土地はアメリカ合衆国を中心としたYMCAからの寄付金により取得されたものなのです。

 「地塩寮」という名前は、新約聖書マタイによる福音書5章13節の、「あなた方は地の塩である」ということばに由来します。塩は、防腐剤として、また味付けのために、重要なものでした。そのように、この寮で学生生活を送った人たちが、世の中に出て行って、腐敗を防ぐような、そしてこれまでの日本に欠けがちな批判精神をもった存在になってほしい、というのが、創設された方々の願いであったのであろうと思います。そして私自身そのように願っています。いまの地塩寮はキリスト教信仰を入寮・入会の条件としてはいませんが、この創設の精神と、寮の名前に込められた意味、その背景にある聖書のことば・教えにはリスペクトをもっていただきたいと思います。

 地塩寮の実質的な運営は寮生自身によりなされています。月に一回の理事会はありますが、ほとんどのことが寮生による自治、自主管理により成り立っています。新入寮生を選ぶのも、寮生です。かつての私の同僚の政治学者が言っていました。「現代の若者の未成熟さということがよく言われるが、その原因ははっきりしている。自分たちで事柄を決めるという自治の経験があまりに欠けていることだ」と。寮運営は大変面倒な、手間のかかることが多いです。自分たちで合意を形成し、自ら治めて行くということは大変面倒で、誰かに決めてもらった方がずっと楽です。うまくいかなければその誰かのせいにすることもできます。自分たちで決め、実行するということは、責任も重く自分たちの肩にのしかかってきます。そのような緊張と、時に苦しみの中で、少しずつ人は成熟していくのだと、自らを顧みて改めて思います。それだけでなく、本当に民主的な社会の基盤をなすのも、自治の活動であり、その精神です。このような自治的な生活の中から将来の日本の姿も展望されるのです。

 安いから、近いから、個室だから、親に勧められて、といった理由だけでなくて、このパンフレットをよくお読みになられ、また寮を訪ねて寮生たちの生活を見、そのうえで、共にこのような寮生活をしてみたい、という方に、寮に入っていただきたいと思っています。



2022年度京都大学YMCA理事長 片柳榮一

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